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京都地方裁判所 平成3年(行ウ)23号 判決

京都市伏見区深草大亀谷八島町27番地

原告

宮崎和子

右訴訟代理人弁護士

出口治男

京都市伏見区ヤリヤ町無番地

被告

伏見税務署長 山口和彦

右指定代理人

中牟田博章

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対し,平成元年6月13日付けでした昭和62年分の所得額を総所得金額3,509,585円,分離長期譲渡所得金額16,842,730円と更正した処分のうち,分離長期譲渡所得金額4,484,007円を超える部分及びこれに対応する過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。

二  被告が原告に対し,平成元年11月30日付けでした昭和63年分の所得額を総所得金額2,737,056円,分離長期譲渡所得金額78,736,380円と更正した処分のうち,分離長期譲渡所得金額15,947,276円を超える部分及びこれに対応する過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。

第二事案の概要

一  請求の類型(訴訟物)

本件は,原告が,租税特別措置法(昭和63年法律第84号による改正前のもの,以下,措置法という)37条1項を適用しないでした被告の本件各更正処分に,分離長期譲渡所得金額の過大認定の違法があると主張して,右各更正処分及びこれに対応する各過少申告加算税賦課決定処分の取消を求める抗告訴訟である。

二  前提事実(争いがない事実)

1  原告は,昭和62年10月2日,原告所有の別紙一の目録一記載の土地(以下,甲土地という)を,訴外田中雅彦に対して譲渡(引き渡しは同年10月20日)した。

その譲渡収入金額は,20,000,000円,取得費は1,000,000円(措置法31条の5(長期譲渡所得の概算取得費控除)適用),譲渡に要した費用1,157,270円(内訳は,仲介手数料600,000円,測量費用225,020円,登記費用外332,250円)である。

2  原告は,昭和62年12月11日,原告所有の別紙一の目録二のイ記載の土地(以下,乙土地という)を,訴外冨岡重尚に対して譲渡(引き渡しは昭和63年1月30日)した。

その譲渡収入金額は,19,160,000円,取得費は958,000円(措置法31条の5(長期譲渡所得の概算取得費控除)適用),譲渡に要した費用942,700円(内訳は,仲介手数料643,800円,測量費用等297,800円,その他1,100円)である。

3  原告は,昭和63年5月26日,原告所有の別紙一の目録二のロ記載の土地(以下,丙土地という)を,訴外有限会社京都美装に対して譲渡(引き渡しは同年6月7日)した。

その譲渡収入金額は,48,060,000円,取得費2,403,000円(措置法31条の5(長期譲渡所得の概算取得費控除)適用),譲渡に要した費用1,431,150円(内訳は,仲介手数料1,300,000円,測量費用等110,900円,その他20,250円)である。

4  原告は,昭和62年12月11日,原告所有の別紙一の目録二のハ記載の土地(以下,丁土地という)を,訴外株式会社弘洋に対して譲渡(引き渡しは昭和63年1月5日)した。

その譲渡収入金額は,19,978,400円,取得費は998,920円(措置法31条の5(長期譲渡所得の概算取得費控除)適用),譲渡に要した費用728,250円(内訳は,仲介手数料600,000円,測量費用等128,000円,その他250円)である。

5  原告は,昭和63年12月20日,別紙二のA記載の建物(以下,A建物という)を11,317,319円で取得し,平成元年4月ころ内部を改装して,同年9月以後,事業の用に供した。

原告は,昭和63年12月20日,別紙二のB記載の土地(以下,B土地という)を1,088,026円で取得し,平成元年1月以後,事業の用に供した。

原告は,平成元年10月16日,自己所有地上に,別紙二のC記載の建物(以下,C建物という)を44,773,000円で取得し,平成元年10月以後,事業の用に供した。

原告は,平成元年12月4日,自己所有地上に,別紙二のD記載の建物(以下,D建物という)を23,088,900円で取得し,平成2年2月以後,事業の用に供した。

6  原告は,昭和63年3月12日,別紙三記載のとおり,甲土地の譲渡所得金額によりA建物を買換えし,措置法37条1項(以下,買換え特例という)の適用ありとして,昭和62年分の所得税の確定申告をし,平成元年5月1日に修正申告をした。

原告は,平成元年3月15日,別紙四記載のとおり,乙,丙,丁土地の譲渡所得金額によりB土地及びC,D建物を買換えし,買換え特例の適用ありとして,昭和63年分の所得税の確定申告をした。

7  これに対し被告は,いずれも買換え特例の適用はないとして,昭和62年分については別紙三記載のとおり,平成元年6月13日,昭和63年分については別紙四記載のとおり,同年11月30日,それぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

8  原告は,昭和62年分について,平成元年8月11日,被告に対し,異議申立てをしたが,被告は,同年11月29日,右申立てを棄却する旨の異議決定をした。

原告は,昭和63年分について,平成2年1月30日,被告に対し,異議申立てをしたが,被告は,同年3月19日,右申立てを棄却する旨の異議決定をした。

9  原告は,昭和62年分について,平成元年12月27日,昭和63年分について,平成2年4月19日,それぞれ国税不服審判所長に対し,右異議決定を経た各処分につき審査請求をしたが,同所長は,平成3年3月22日,右各審査請求を棄却する旨の裁決をした。

10  なお,本件において,昭和62年分の総所得金額が3,509,585円,昭和63年分の総所得金額が2,737,056円であること,本件譲渡所得の金額について措置法31条の分離長期譲渡所得の課税の特例が適用されること,買換え特例の適用がない場合の長期譲渡所得の特別控除額が各1,000,000円であること及び甲ないし丁土地(以下,本件各土地という)が,後記認定のとおり,換地により原告が取得した土地であり,その従前地がいずれも農地であり,原告の事業の用に供されていたことは,当事者間に争いがない。

三  争点

買換え特例の適用の有無

1  本件各土地は,譲渡時に事業の用に供されていたといえるか。

2  乙,丙土地について,換地処分に瑕疵があり,直ちに事実上使用収益できないような状態が続き,その解消後遅滞なく処分したような場合に,適用があるか。

四  争点に関する当事者の主張

1  原告

(一) 本件各土地は,いずれも換地によって原告が取得した土地から分筆した土地である。その換地処分の登記が行われたのは昭和55年2月8日であり,本来であれば,各地処分によって,原告が自由に,本件各土地を使用収益譲渡等の処分がなしえたはずである。

(二) しかし,甲,丁土地を含む土地については,換地処分が公告され,登記された時点においても,なお原告と京都市桃山東土地区画整理組合(以下,整理組合という)との協定書に基づき宅地造成工事が行われており,しかもその宅地造成工事は土地区画整理法による土地区画整理事業として行うことができなくなり,改めて都市計画法29条の開発行為の許可による工事として続けられて,ようやく昭和60年12月13日ころ完了した。

右工事完了までの間,甲,丁土地の使用収益又は処分は社会通念上できなかったものである。

そこで,原告は,一時的な処置として,露天駐車場として農地の転用を行い,千代田土地株式会社(以下,千代田土地という)に賃貸しようと努力した。したがって,駐車場経営の事業に供するための準備行為に及んでいたのであるから,相手方が契約締結に応じなかったとしても,甲,丁土地は,譲渡時において,事業の用に供していたというべきである。

仮に,そうでないとしても,工事完了後直ちに処分するつもりであったから,従前地(農地)が,工事完了後処分された場合と同様の取扱を受けるべきであり,甲,丁土地は,農業の用に供されていたというべきである。

(三) 乙,丙土地を含む土地部分については,換地された土地内に水路が設置されるなどしており,原告は,これらの換地処分そのものにつき不服であり,整理組合に対し,異議を述べ続けていた。したがって,この点の是正が行われない限り,社会通念上処分はなしえなかったのである。しかも,整理組合の役員が農地転用の審査をする農業委員会委員をしていたため,乙,丙土地の農地転用の許可を整理組合が事実上妨害し,右許可がされないことが明らかであったこと等の事情に照らすと,整理組合が乙,丙土地の農地転用を事実上妨害することをやめた時点,即ち,整理組合が保留地の処分を完了し,原告に対し土地や金銭の提供をしなくてもよいと判断した昭和61年7月ころまでは,右土地について社会通念上使用収益処分は不可能ないしは著しく困難であったというべきである。その後転用許可を受け,右土地を譲渡したのであるから,乙,丙土地についても,農業の用に供されていたと同視すべきであり,買換えの特例適用が認められるべきである。

2  被告

(一) 措置法37条1項の規定は,課税上の例外的租税減免規定であるから,その解釈に当たっては,厳格性が要求される。しかも,その主張立証責任は,納税者が負担する。

そして,事業用資産であるというためには,現実に継続して自己の事業の用に供していたものであることを要するが,例外として,これと同視するに足る特段の事情があり,その譲渡が,事業の供用停止後相当な期間内に行われた場合にも,買換え特例の適用は認められる。

しかし,本件では,各土地とも,事業の用に供されていたといえない。

(二) 甲,丁土地に関して,都市計画法36条3項による開発行為の工事完了公告がなされた日は,昭和59年7月12日(検査済証交付の日は同月3日)であるから,法律上は同日から使用収益及び処分が可能になったということができるし,また,甲,丁土地に隣接する道路が市道として京都市へ移管されたのが昭和60年12月13日であることに照らせば,同日以降において,事実上も使用収益及び処分が可能になったといえる。

そして,原告は,昭和60年12月ころ以降において,甲,丁土地を使用収益していない。原告は,甲,丁土地を千代田土地借りてもらおうと意図していたというが,駐車場としての賃貸借契約も存せず,駐車場利用に係る収入もない場合には,事業の用に供しているとはいえない。また,現実に農業の用に供していたこともない。

(三) 本件乙及び丙土地は,昭和53年7月1日の仮換地指定後において直ちに使用収益することが可能となり,昭和55年2月8日の換地処分の登記後においては,法律上処分することも可能となった。にもかかわらず,原告が,仮換地後も乙,丙土地を使用収益しなかったのは,事業の用に供することができなかったのではなく,換地処分後,直ちに売却するつもりであり,また,水路と整理組合の保留地の交換を有利に進めるため,あえて事業の用に供さなかったというにすぎない。整理組合が乙,丙土地の農地転用の許可を事実上妨害していたこともない。

第三争点に対する判断

一  事実認定

証拠によれば,次の事実を認めることができる。

1  昭和48年3月,京都市桃山東土地区画整理組合(整理組合)が設立された。同組合の土地区画整理事業の施行地区は,京都市伏見区深草大亀谷安信町,深草大亀谷敦賀町,深草大亀谷古御香町,深草大亀谷岩山町,深草兜山町,桃山町安芸山,桃山町紅雪,桃山町伊庭,桃山町大蔵の各一部の区域であり,原告は,右区域内に別紙五の「原告土地」欄記載のとおり,合計21,416m2の土地を所有して組合員になった。このうち,深草兜山町(以下,土地の所在を表す場合はこのように表示する)の二筆の土地(別紙五の(15),(16))は,土地区画整理事業の対象ではなかったが,原告が,整理事業の遂行の支障となる行為を行わないこと,右二筆の土地が他の土地と異なった取扱となっても異議を述べたり,抗議をしないという「誓約,覚書」を,昭和46年9月10日に整理組合に差し入れたため,事業の対象土地に組み入れられたものであった。(甲37,39,126,134,証人古家野)

2  昭和53年6月24日,整理組合は,原告を含む組合員に対し,仮換地指定の通知(効力発生日は,同年7月1日)を行った。これに対し,原告は,自己に対する仮換地指定処分が不正,不当であるとして,同年8月24日仮換地指定処分の取消しを求める行政不服審査請求を京都市長に申し立て,審査請求手続において,仮換地処分の当否をめぐって原告と整理組合との間で応酬があった。(甲39ないし43,46,134,原告)

3  その後原告は,昭和54年11月ころ,古家野泰也弁護士(以下,古家野弁護士という)に仮換地処分問題について相談をし,同年12月8日,同弁護士を代理人として,整理組合に対し,換地計画ではほとんど造成工事を行わない予定であった深草兜山町の土地についても造成工事を行うべきであるとすることや,別紙五の(i)の土地(後記認定のとおり,乙,丙土地の分筆前の土地)の北側部分に,仮換地後に設置した水路部分を含めて換地することの修正を行うこと等を主な内容とする意見書を提出した。整理組合では,同年末の総会で,右意見書を不採択とする決議をした。(甲44,132,134,証人古家野,原告)

4  深草兜山町内以外の土地の造成工事もほぼ終わり,昭和55年1月17日に換地処分通知をすることとしていた整理組合は,原告の行政不服審査請求によって換地処分の実施が遅れることを危惧し,原告との間の問題解決を急ぐことにした。そこで,古家野弁護士事務所において,同年1月16日から交渉を重ね,翌1月17日未明,大要別紙六記載のとおり,本件協定対象土地について宅地造成工事,道路完成工事等を行うことを主たる内容とする協定(以下,本件協定という)を原告との間で締結した。また,この際,原告は,別紙五の(i)の土地についての水路部分の面積の修正等を始めとする従前からの異議を全て撤回し(別紙六の第11条参照),行政不服審査請求も取り下げることを約し,17日,右審査請求を取り下げた。(甲47,125,132ないし134,証人古家野,原告)

5  昭和55年1月17日換地処分通知がなされ,原告については,別紙五記載のとおり,本件協定対象外の土地((a)ないし(i)の土地)については当初の換地計画のとおりに,本件協定対象土地については別紙五の「本件協定対象土地」との表示欄記載のとおり,それぞれ換地処分がなされた。そして,同年2月7日には換地処分の公告がなされ,翌8日にはそれぞれ登記が経由された。(甲48,87ないし89,93ないし98,127の1,2,134,乙18)

6  本件協定対象土地についての所定の工事は,当初予定の昭和55年末から遅れ,昭和56年5月ころまでに完了したが,この造成工事未了の間に換地処分が行われたため,土地区画整理法に違反するものであった。このため,京都市から,違法な換地処分で形成された道路敷の寄付を受け,これを建築基準法42条にいう認定道路とすることに難色を示されるようになった。(甲55,132,134)

7  このため,このままでは本件協定対象土地内の宅地敷は,適法に建物を建てることができないという状態となり,苦慮した整理組合や工事施行を受託した財団法人土地区画整理協会(以下,整理協会という)の計画工事課長らは,古家野弁護士に対し,その旨説明をし,同年11月には,深草兜山町内の土地の造成を本件土地区画整理事業としてではなく,都市計画法29条に基づく開発行為としたうえで,造成道路を認定道路にするしか方法のないこと,そのための開発許可手続きには費用が必要となるため,その負担について検討してほしいと申し入れた。(甲55,56,132,167)

8  昭和57年6月ころには,原告も古家野弁護士から説明を受け,二次開発となると本件協定締結当時に予想された以上に整備工事が必要となり,余分に費用がかかることを認識した。その後,超過費用を原告に負担させたい整理組合との間でやりとりが続き,納得できない原告は,同年12月28日,換地処分の取消変更を求めて行政不服審査請求を行った。(甲60ないし63,99,132ないし135,原告)

9  その後も古家野弁護士と整理組合との協議が続き,昭和58年8月26日ころ,本件協定対象土地の造成を,本件土地区画整理事業ではなく,いわゆる二次開発という手続きで行い,その費用は整理組合が全額負担するという内容の合意が成立した。そして,他の関係地主の同意を得たうえ,同年12月6日には,京都市から右二次開発の許可を受けた。(甲64ないし68,70ないし72,133)

10  こうして,本件協定対象土地の造成工事が軌道に乗り,昭和60年12月13日には,京都市に対する道路の寄付もなされ,昭和61年4月ころには本件協定対象土地の工事は完了した。なお,都市計画法36条3項による工事完了公告は,昭和59年7月12日になされている。(甲85,86,136,原告)

11  原告は,昭和60年2月ころから,古家野弁護士を代理人として,整理協会に対し,本件換地処分,二次開発に関して不平不満な点(別紙五の(i)の土地内の水路の問題等)の是正,解決を要求するようになった。これに対し,整理協会は,昭和61年7月17日付けで,要求をいずれも拒絶する回答をした。そこで,原告は,平成元年,整理組合を被告として損害賠償請求等の訴訟を提起した。なお,昭和63年8月25日,整理組合は,解散決議をしている。(甲75ないし79,108,乙9,証人古家野)

12  原告は,かねてから特別擁護老人ホームの設立を計画していたが,昭和58年3月1日,原告を代表者とする社会福祉法人三福福祉会(以下,三福福祉会という)が認可され,同月11日設立登記された。そして,原告は,換地処分を受けた本件対象土地のうち,深草兜山町53番1,53番2,53番3,52番3の土地を同月15日に,52番1の土地から分筆した52番4,52番5の土地を同年6月9日に,それぞれ農地転用届出をしたうえ,それぞれ三福福祉会に寄付をした。これら6筆の土地は三福福祉会から,また,右52番1の土地から分筆された52番6の土地は原告から,それぞれ豊国建設株式会社を経由するなどして,同年8月31日に千代田土地に売却され,その売得金は,三福福祉会の特別擁護老人ホーム建設に充てられた。(甲89ないし95,101,102,112ないし124,134ないし136,原告)

13  甲土地は,本件協定対象土地の深草兜山町54番の土地から昭和60年12月16日に分筆された54番2の土地から,さらに昭和62年10月5日に分筆された土地で,昭和61年2月1日地目が畑から雑種地に変更されている。(甲96,乙11)

乙土地は,本件協定対象外の土地である深草大亀谷古御香町111番の土地から,昭和62年12月26日に水路部分を除いて分筆された土地で,昭和63年1月15日に地目が田から宅地に変更されている。(乙12,原告)

丙土地は,乙土地同様,深草大亀谷古御香町111番の土地から昭和62年12月26日に分筆された111番1の土地から,さらに昭和63年5月27日に分筆された三筆の土地である。(乙13ないし15)

丁土地は,甲土地同様,昭和60年12月16日に分筆された深草兜山町54番2の土地から,さらに昭和62年12月14日に分筆された土地である。(乙16)

14  前認定のように本件協定対象土地の造成は,昭和55年ころから行われたが,後の甲,丁土地を含む分筆前の深草兜山町54番の土地(以下,旧54番の土地という)の隣地を昭和58年8月31日に買収し,そこに分譲住宅の建設を始めた千代田土地が,旧54番の土地を,工事用車両の駐車場として昭和59年ころから無断で使用するようになった。そこで,原告は,露天の駐車場として千代田土地に賃貸することを考え,昭和60年11月27日,京都市伏見区農業委員会に転用届出をし,昭和61年2月1日地目を畑から雑種地に変更し,千代田土地に幾度となく賃貸借契約の締結を求めた。しかし,千代田土地は,これに応じることなく無断使用を継続していたが,昭和61年4月ころ,道路が舗装されたことから,車両を道路上に駐車するようになった。そして,このころから,木材,セメント塊等の廃棄物が捨てられるようになり,この状態は甲,丁土地が譲渡されるまで続いた。(甲159の1,2,161,162,乙11,証人古家野,原告)

15  整理組合の土地区画整理事業の対象地は,いずれも市街化区域内にあるため,農地の転用ないし転用のための移転について府知事の許可を必要とせず,伏見区農業委員会への届出で足りる。原告は,昭和55年から昭和58年にかけ,所有地の駐車場や宅地への転用,転用のための所有権移転に際し,伏見区農業委員会へ転用の届出を行ったことがある。(甲155ないし158,原告)

二  事業用資産の意義について

措置法37条1項にいう「事業の用に供しているもの」とは,営利を目的とし,自らの危険と計算で継続的に行う事業のために使用する資産をいい,原則として,譲渡の当時,現実に事業の用に供されている資産をいう(最判平2・7・19裁判集民事160号279頁及び原審判決参照)。しかし,企業資本の運用の形態の変更に当たって,その実質的価値を維持させる目的で課税の軽減を図るという同規定の趣旨に照らせば,現実の供用が停止された後も,相当の期間内はいまだ事業用資産としての性質を失わないものと解するのが相当である。

そして,本件のように,事業の用に供されていた従前地について土地区画整理事業が施行され,さらに都市計画法上の開発行為が許可され,それらに基づいて造成工事が行われた場合には,換地後の土地について,その工事期間中は事業の用に供することは事実上できないものと考えられるので,この工事が完了して事実上事業の用に供しえる状態になった時点から,右にいう相当な期間の進行が始まるものと解するのが相当である。

そして,どの程度の期間が事業用資産の性質を失わない相当な期間であるかは,その期間の長さ,その間の資産の供用を行わない事情,停止中における買換えの準備活動状況,事業用資産の性質等を総合して個別・具体的に判断すべきである。

三  甲,丁土地の事業用資産性について

1  前記認定事実によると,甲,丁土地は,昭和55年2月8日,換地処分を受けた本件協定対象土地である旧54番の土地の一部であり,昭和60年11月27日に駐車場として農地転用届出がなされ,昭和61年2月1日に地目雑種地として変更登記され,本件協定対象土地の開発行為の造成工事は,完了公告は昭和59年7月12日になされているが,実際の工事は昭和61年4月ころ完了したことが認められる。

してみると,おそくとも昭和61年4月ころには,甲,丁土地は,事実上事業の用に供しうる状態にあったものと認められる。

2  そして,前記認定事実によると,原告は,昭和61年2月ころから千代田土地に対して,甲,丁土地を駐車場として賃貸しようと交渉したが,まとまらず,同年4月以後は廃棄物の捨場となり,本件譲渡時点まで続いていたことが認められる。

してみると,甲,丁土地は,駐車場として,原告の事業の用に供されていたということはできないといわざるをえない。

3  原告は,甲,丁土地は,駐車場としての実体を有し,千代田土地との賃貸借契約締結の準備行為に及んでいたので,事業の用に供されていたと主張する。

しかし,事業用資金の意義は,前示のとおりであって,前記認定事実によれば,原告は,甲,丁土地を駐車場経営の事業の用に供せんとはしたものの,現に供していたと認めることはできないから,原告の主張は採用できない。

4  原告は,また,造成工事が完了した時点で,従前地の農業の用に供していた状態(畑)に復したとみるべきであると主張する。

しかし,甲,丁土地が駐車場として転用されたことは前認定のとおりであり,畑の状態に復したものでないことは明らかであるうえに,その後譲渡までの間,買換えのための目的をもって,必要な準備行為として放置されていたとも認められず,その期間も1年半であって買換えのための期間として相当ともいいがたい。

よって,この主張も到底作用できない。

四  乙,丙土地の事業用資産性について

1  前記認定事実によると,乙,丙土地は,昭和53年6月24日仮換地の指定を受け,昭和55年1月17日ころまでに造成工事も終わり,同年2月8日,換地処分を受けた深草大亀谷古御香町111番の土地の一部である。

右土地は,当初からの換地計画によって換地されたものであって,本件協定対象土地ではないから,おそくとも昭和55年2月8日には,事実上事業の用に供しうる状態にあったものと認められる。

2  そして,右土地から分筆された乙土地が譲渡されたのは昭和62年12月11日,丙土地が譲渡されたのが昭和63年5月26日である(第二の二前提事実参照)から,その間7年10月以上も経過しており,その期間の長さの点からしても,買換え準備のための相当な期間といえないことは明らかである。

そして,その間原告の事業の用に供されたことは認められないから,乙,丙土地は,譲渡時において,事業用資産であったいうことはできない。

3  原告は,乙,丙土地(前記111番の土地)には仮換地後水路が設けられたため,その是正を求めて整理組合等と交渉を重ねており,水路の埋設もできず,譲渡処分のための農地転用許可も,整理組合の妨害により昭和62年ころまでは得られる見通しがなかったのであるから,その間他に処分しようにもできなかった旨主張する。

確かに,前記認定事実によると,原告は,乙,丙土地(前記111番の土地)の水路問題について,仮換地以後繰り返し整理組合等と交渉を重ねていたことは認められる。しかし,この問題については,原告において異議を全て撤回するとの合意の上で本件協定が締結され,換地処分がなされたものであって,その後の執拗な原告の要求に対して,整理組合等の側で拒絶したことも直ちに不当とはいいがたい。

また,乙,丙土地付近が市街化区域であって,農地の転用にあって届出のみで足り,伏見区農業委員会の許可を要しないことは前認定のとおりであって,昭和62年ころまで処分しようにもできなかったという原告の主張も採用しがたい。

第四結論

以上のとおり,甲ないし丁土地は,いずれも事業用資産であったとは認められないから,被告のした本件各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分は適法であり,これに違法な点はない。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 中村隆次 裁判官 遠藤浩太郎)

〈以下省略〉

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